ドクター蜂谷のStay Healthy!

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2020.08.04

インスリン抵抗性(メタボの本体)と2型糖尿病の発症機序

 内臓脂肪性肥満がメタボリックシンドロームの本体であり、その底流にあるのがインスリン抵抗性であると先に示しました。実はインスリン抵抗性は驚くほど多くの病気を起こします。例えば2型糖尿病・高血圧・脂質異常・アルツハイマー型認知症・動脈硬化性疾患(心筋梗塞・脳梗塞・閉塞性動脈硬化症etc.)など。

インスリン抵抗性とは文字通り、インスリンが効きにくい身体ということですが、そもそもインスリンは膵臓β細胞から血液中に分泌されるホルモンで、主な役割は血液中のブドウ糖(血中の糖は99%以上ブドウ糖。他の糖は肝臓でブドウ糖へと代謝されて血液中に出現。)を筋肉・脂肪・肝臓の細胞内に取込むことです。血中ブドウ糖が細胞内に取込めないと、血中ブドウ糖は高値(高血糖)となり、糖尿病になります。
私は学生さんに、「糖尿病を一言で表現してください」としばしば質問しますが、典型的な誤答は、「インスリン不足のための慢性高血糖」です。「インスリン作用不足による慢性高血糖」であれば正解としています。「作用」という語句の有無だけの差ですが、これが糖尿病・メタボ・インスリン抵抗性を理解するのに重要なポイントなのです。
ところで、糖尿病は一つの病気なのでしょうか? かつて担当したA氏の糖尿病の原因は交通事故でした。追突事故で腹部を挟み込み生死を彷徨い、結果的に1日4回のインスリン自己注射で社会復帰されました。事故による膵臓破裂と救命のための膵臓摘出術の結果です。小学校からインスリン注射を一日も欠かさずに成長したB青年は幼少期から運動好き。しかし突然意識低下して救急搬送され、1型糖尿病と診断。以後インスリン注射を続けています。決して生活習慣が原因ではありません。他にも、中止できない薬の副作用でインスリン注射をしている患者、膵炎・膵癌や他の悪性腫瘍・肝硬変・内分泌疾患や遺伝性の筋肉疾患などが原因の糖尿病など、糖尿病と言っても多種多様のものがあり、その原因は百人百様、千差万別です。
一方、急激に増加し、社会問題とされている糖尿病があります。それは2型糖尿病です。2型糖尿病はまさにインスリン抵抗性に起因して起こりますが、全糖尿病の90%以上を占めます。内臓脂肪組織の大型脂肪細胞から分泌させる複数の炎症性(悪玉)サイトカインはインスリンを効きにくくし、そのため血糖を下げるには一層多くのインスリンを膵β細胞は分泌せざるを得ません。この時、「血糖値は正常であり、血中インスリンは非常に多い」という状態です。さらに肥り、運動不足が続くと、インスリン抵抗性がさらに増悪し、血糖値を保つためにはもっと大量のインスリン分泌をβ細胞に強いることになります。この時は「血糖値が正常範囲であっても、β細胞の過負荷の結果としての血中インスリンのさらなる高値」の状態であり、その後は次第に膵β細胞は疲れ始め、近々インスリン分泌が低下し始めることになります。そして、インスリン抵抗性に見合うインスリン分泌が出来ない状態に陥ります。これが2型糖尿病の発症機序です。どの程度のβ細胞への負荷に耐えられるかは遺伝的要素があり、負荷をもたらすものは内臓脂肪からの悪玉サイトカインによるインスリン抵抗性(環境)ということになります。つまり、2型糖尿病は、遺伝的(素因)と環境(誘因)で起こり、誘因は生活習慣≒内臓脂肪≒インスリン抵抗性に他なりません。適切な対応を採らなければ、β細胞疲弊はβ細胞死へと悪化し、当初は食事・運動療法で治療できた糖尿病が、経口(内服)糖尿病薬が必要となり、さらにはインスリン注射が必須という状態に進行していきます。

2020.06.29

『メタボとは2.メタボリックシンドロームの診断基準について』

メタボリックシンドロームの原因は内臓脂肪にあります。ですから、診断に必須なのは内臓脂肪の多少です。CTスキャンで腹部断面の内臓脂肪面積100㎠が目安とされていますが、CTスキャンは大掛かりな検査機器であり、簡単には検査はできません。村の小学校や公民館でも手軽に健診できるようにと100㎠に相当するウエスト径を調べたところ、日本人では男性85㎝、女性90㎝に相当することが解りました。

ところで、肥満ということであれば、BMIで良いのではという意見が出ると思います。BMIは世界中で用いられる体格指数、体重(Kg)を

身長(m)×身長(m)で割ったものです。体重60Kg、身長160㎝であれば、BMIは60÷1.6÷1.6で23.4となります。ちなみに18.5~25未満が普通体重で、25以上は肥満、18.5未満は低体重とされます。

なぜBMIではなくて、臍の高さのウエスト周囲径が用いられるのか、重要なのは内臓脂肪であって皮下脂肪ではないということなのです。皮下脂肪が多いための肥満は内臓脂肪が少なければメタボとは言えません。また、男性85㎝女性90㎝と、男性が小さいのは日本人に特徴的なようです。

 メタボの診断基準は2005年4月にできました。下記の通りです。

 必須項目:腹囲径(男性85㎝,女性90㎝)

があり、さらに下記の3項目中2項目が該当するとき。①血圧130/80以上(または治療中)、②空腹時血糖値110以上(または糖尿病治療

中)③中性脂肪150以上またはHDL-コレステロール(善玉コレステロール)40未満または治療中。

ここでLDL-コレステロール(悪玉コレステロール)が診断基準に入らないのは何故かと疑問に思われるかもしれません。実は、LDL-コレステロールはメタボリックシンドロームとは無関係に単独で危険因子であることが解っており、内臓脂肪肥満(インスリン抵抗性)とは別の機序によるものだからです。※インスリン抵抗性という新しい言葉が出てきました。長くなるので今回は省略(次回に)しますが、内臓脂肪過多とインスリン抵抗性は同じことを意味します。そしてインスリン抵抗性(インスリンというホルモンが効きにくい体質)こそが現在話題となっている2型糖尿病の根本的な原因なのです。

2020.06.08

『メタボとは ・・・ 1.本体は内臓脂肪』

メタボ予防とか、メタボ対策とか、メタボという言葉は日常的に使われていますが、これはメタボリックシンドロームからの派生語です。また、このメタボリックシンドロームという概念の歴史は非常に浅く、最近のものです。

かつて私たちは生活習慣病の予防は、独立した危険因子(高血圧、高血糖、脂質異常、肥満など)一つ一つに対処していくことと考えていました。しかし、また同時に、各危険因子はそれぞれ互いに関連性が強い(高血圧は肥満に多く、肥満では脂質異常や糖尿病になりやすい、糖尿病では高血圧の人が多いなど)ということも知られていました。一見、それぞれ独立しているように見える危険因子の底流に共通する何かが潜んでいると解り、メタボリックシンドロームという概念が確立したのです。

一方、脂肪組織には、内臓脂肪と皮下脂肪があります。かつて、脂肪組織(それを形成する脂肪細胞)は単なるエネルギー貯蔵庫であると考えられていました。ところが、現在では、脂肪組織は最大の内分泌臓器と考えらえており、数百種類に及ぶ生理活性物質(ホルモン・アデイポサイトカイン)を分泌し、身体全体に多大な影響を及ぼしていることが解っています。(皮下脂肪も大きな役割を持っていますが、今回は、内臓脂肪の変身について触れたいと思います。)過剰な栄養が内臓脂肪に貯まると、内臓脂肪細胞は大型になり、栄養が減少すれば小型脂肪細胞になります。大型が大半を占めれば内臓脂肪肥満になり、小型になれば痩せを意味します。大型脂肪細胞からは、例えばTNF-α、PAI-1など血管を傷つけたり、血栓を作り易くするような悪玉の炎症性サイトカインが多数分泌され、一方、小型脂肪細動からはアデイポネクチンという抗糖尿病・抗動脈硬化作用を持つ善玉のサイトカインが分泌されます。このことから、内臓脂肪の多い(大型脂肪細胞)、少ない(小型脂肪細胞)が生活習慣病のなりやすさに大きく影響を与えることがわかります。

独立した危険因子(高血圧、高血糖、脂質異常、肥満など)と考えられていた因子の底流にある共通したものの正体は悪玉サイトカインであり、内臓脂肪細胞の大型化、つまり内臓脂肪肥満だったのです。改善策は言うに及ばず、小型にすること(内臓脂肪を少なくすること)に他なりません。摂取エネルギーを少なく、消費エネルギーを多くして、内臓脂肪を小型化しましょう。


2020.05.29

『医学的に評価される食事の摂り方』

 「3大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)を適切な割合で、ビタミン・ミネラルが不足しないように、そして食物線維は特に十分に食べましょう」と従来から推奨されてきました。ここでは最近の糖尿病学の深化を踏まえ、さらに歩を進めたいと思います。

平均血糖値(HbA1c値:過去1.5か月間の血糖値の平均)が同程度である糖尿病患者でも、生命予後に差異があることは古くから知られていました。食後血糖値が極めて高く食前は低いというA群(血糖変動大)と、食後と食前の血糖値の差が少ないB群(血糖変動小)の2群において、長期に渡る平均血糖値(HbA1c値)が同じであった場合は、A群の生命予後が不良となります。また、食後の急激な高血糖が動脈硬化を促進することが証明されました。従って、食後の急峻な血糖値上昇を如何に防ぐかが課題となります(HbA1cも重要ですが)。                 
それで、ゆっくり食べる、食物線維を多く食べる、炭水化物の消化を遅くする薬を使うなどが、食後の急激な血糖値上昇を抑える手段として従来から用いられてきました。
 「蛋白質を糖質の先に食べておく」は新しい方法です。血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、小腸下部のL細胞から分泌されるGLP-1(インクレチンの一つ)によって促進されます。GLP-1は小腸L細胞から、糖やアミノ酸(蛋白質分解の最小単位)が吸収されるときに分泌されるホルモンです。先にアミノ酸が吸収されて、GLP-1が分泌され、インスリン分泌が高まったときに糖が吸収されれば、食後の急激な血糖上昇は抑制されます。このことから、糖質よりも蛋白質を10分ほど早めに食べておくことが、動脈硬化予防や糖尿病悪化予防に効果的と言えるわけです。            
 蛇足ですが、医学は進歩しています。小腸L細胞から分泌されるGLP-1は、DPP-4という物質で1-2分で分解されてしまいます。せっかくの健康ホルモンなのにと思われますが、現在では分解を邪魔するDPP-4阻害剤が糖尿病の治療薬として頻用されています。このDPP-4阻害剤を内服することで、自分の小腸から分泌されたGLP-1が長く強く作用し、血糖値を下げてくれるのです。このDPP-4阻害剤は、欧米人よりも日本人に効果が出やすく、日本では糖尿病薬の中での使用頻度は1-2位を争うくらい頻用されています。さらに、GLP-1自己皮下注射(GLP-1受容体作動薬)も人気があります。1日1-2回あるいは1週間に1回の注射でいいものもあります(DPP-4阻害剤も1日1-2回内服や週に1回だけ内服のものも)。GLP-1作動薬も多種あり、中には食欲低下(一機食い抑制)や体重減少を手助けする作用も併せ持っているものもあります。
 しかし、この薬・注射は糖尿病の患者にだけ適応が認められていますので、そうでない人は食べる順番の工夫によって自分自身のGLP-1をうまく使っていきましょう。

2020.05.24

『血管やメタボに優しい食習慣』

「食後の急激な血糖値の上昇は動脈硬化の促進や肥満・糖尿病の悪化をもたらす。空腹時と食後の血糖値の差は小さい方が良い。」とされています。また従来、食物線維を先に食べて吸収を緩やかにすること、腸内細菌叢を整えて置くこと、食塩摂取を少なくすること、などが健康的な食習慣として推奨されています。

今回はそれに追加して、「蛋白質を炭水化物よりも先に食べる」ということを考えてみます。

 アミノ酸(蛋白質の消化物)や糖(炭水化物)は小腸から血液中へと吸収されますが、この時、吸収と同時に、インクレチンというホルモンが小腸L細胞から分泌されます。さらにインクレチンは血糖値を下げる有名なホルモン(インスリン)の分泌を膵臓に促します。アミノ酸(蛋白質)を先に食べることで、事前に糖を受け入れる準備(インスリン分泌)を膵臓に働きかけて置いてから糖(炭水化物)を摂取する。そうやって食後の急峻な血糖値上昇を抑制することは身体に優しい食習慣の一つではないでしょうか。


【蜂谷春雄プロフィール】

蜂谷春雄

高岡市伏木生まれで、伏木保育園・伏木小学校・伏木中学・高岡高校。大学で初めて市外に出て自治医科大学(6年間全寮制で仲間と毎晩地域医療談義)。

昭和55年、富山県立中央病院(2年間)臨床研修医。

昭和57年、氷見市民病院が僻地中核病院に指定され、それと同時に富山県からの出向で氷見市立氷見市民病院(26年間)。僻地巡回診療を26年行った。気が付くと、27歳の最年少医師から53歳の最古参医師となっていた。氷見では副院長・地域医療連携室長・糖尿病センター長を兼務。   

平成20年4月、高岡市民病院内科主任部長に着任、その後、医療局長を経て、市民病院理事・副院長で令和2年3月定年退職。

僻地診療26年間と医療機関連携を評価され、平成23年に第5回地域医療貢献奨励賞し家内と一緒に東京で授賞式に行ったことや高岡市民病院を地域医療支援病院にできたことなどが嬉しかった思い出。

定年退職後の現在、高岡市民病院非常勤医療相談役で主に内科外来診療と糖尿病を担当。日本糖尿病学会専門医、日本糖尿病協会療養指導医、富山県糖尿病対策推進会議幹事、日本糖尿病協会富山県支部常任理事、日本内科学会北陸支部評議委員、日本医師会認定産業医。

地域の医療機関へ応援や将来の医療スタッフの育成などを通して、地域医療にさらなる貢献ができればと願っている。

令和2年5月22日

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2020.11.04

今回のテーマは「日本野球の歴史を思う道」です。東京・神田の日本学士会館の敷地の一角にあるモニュメントが置かれています。そのモニュメントとは…

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2020.08.04

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2020.08.04

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ドクター蜂谷のStay Healthy!

2020.08.04

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