「事に備える」 | 佐野慎輔の野球をあるく

佐野慎輔の野球をあるく

2020.08.04

「事に備える」

収まりつつあった新型コロナウイルスの感染拡大が、東京をはじめ首都圏でぶり返している。小池百合子氏が再選された東京都知事選投票日の7月5日を前後して、東京では6日連続して、感染者が100人を超えた。政府も都もそれを否定したが、「第2波」の来襲を思った方も少なくあるまい。

 時を同じく、集中豪雨が九州地方を襲い熊本県球磨川流域などに甚大な被害をもたらした。近年では7月から台風の影響も加わる秋ごろにかけ、集中豪雨が日本列島に大きな災害を連れてきている。今年はコロナ禍の収束をみないまま、豪雨、台風の季節を迎えた。「複合災害」を意識し、備えを強固にしていく必要がある。改めてそう思う。

 おりしも、日本野球機構(NPB)は7月10日から観客をスタンドにいれた有人試合を開催。5000人、または収容人数の半数以内のいずれか少ない方でとの但し書きがつき、感染防止策を講じた上で観客席を開放する。選手やチームスタッフ、審判員などにPCR検査を実施することはいうまでもない。備えを整えることは当然の措置だ。

 有人試合に先鞭をつけたのは富山サンダーバーズにほかならない。失礼ながら、日ごろは来ない数の報道陣が石川ミリオンスターズとの開幕戦が行われた富山県営球場に集まった。関心の向こう側にはNPBやJリーグの有人試合がある。いいではないか、大きな組織よりも先に、BCリーグの1チームが世間の注目を集めたことに意義がある。永森茂球団社長の英断だと評価したい。

 もちろん、開催に際しては万全な対策が講じられた。人の命にまで影響を与えかねない感染症の怖さを考えれば、備えに「これでよし」ということはない。今後も油断せずに備えを固めてもらいたい

 このコロナ騒動から、われわれが学ぶことがあるとすれば、新しい生活様式、すなわち社会的な距離の取り方とリモートによる会議や打合せとともに、「事に備える」という意識の再確認ではないだろうか。

 「備え」の重要さを、口を酸っぱくして説いたのが、故野村克也さんだった。

 野村さんは専属評論家だったサンケイスポーツに連載した『ノムラの考え』で、こう書いている。「野球の8割が備えで決まる」

 「備え」というと「守備」―守りを固めることに思いはいきがちだが、野村という人はそれほど単純ではない。打撃、バッターボックスに立つときの「備え」を説く。以下はサンスポの編集委員が亡くなった後、『よみがえるノムラの金言』として構成した6月12日付の紙面である。曰く…

    主に、打者が甘い球を打ち損じたとき。「直球を狙う…」では不十分。「高めの球だけ」「バットを立てて」「コンパクトに振る」などと、心構えを重ねておくべし

 こんな状況になったら、次はどうする。いかに「二の矢」「三の矢」を放つか。「二段構え」「三段構え」で備えておけという教えである。この二段、三段構えは展開によって変わっていく作戦面にもあてはまれば、もちろん守備につく心構えも示す。常に「備えを固めて」おくことの重要さを教えてくれる。名打者、名捕手、名監督の極意である。

日本には「備えあれば憂いなし」とのことわざがある。憂いなしとまで言い切れないだろうが、世の中の「8割は備えで決まる」のではないか。普段の生活、仕事、そして災害…「備え」はすべてに重要だ。改めて「事に備える」意義を、今この時期だからこそ、野村さんの教えとともに噛みしめたい。

  【佐野慎輔プロフィール】

佐野慎輔
【略歴】
  • 県立高岡高校、早稲田大学卒
  • 1979年、株式会社報知新聞社に入社、運動部記者としてプロ野球を担当(巨人、ヤクルト、西武、遊軍)
  • 1990年、報知新聞社退社後、株式会社産業経済新聞社入社
  • 産経新聞運動部でプロ野球(西武)を担当後、オリンピック担当
  • 産経新聞シドニー支局長、外信部次長、編集局次長兼運動部長兼論説委員、業務企画統括兼資材部長等を経て、サンケイスポーツ代表、産経新聞社取締役を歴任し、その後、産経新聞特別記者兼論説委員を務める
2019年4月末で産経新聞社退社
【現在の役職】
  • 産経新聞社客員論説委員
  • 公益財団法人笹川スポーツ財団理事・スポーツ政策研究所上席特別研究員
  • NPO法人日本オリンピックアカデミー理事・マーケティング委員長
  • 公益財団法人日本財団アドバイザー
  • 公益財団法人ブルーシー&グリーンランド(B&G)財団理事
  • 一般財団法人日本モーターボート競走会評議員
  • 早稲田大学非常勤講師(春学期・スポーツとメディア論、7年目)
  • 立教大学、同大学院非常勤講師(秋学期・スポーツとメディア論、2年目)
  • 2020東京オリンピック・パラリンピック組織委員会メディア委員
  • 2019ラグビーワールドカップ組織委員会顧問
  • 一般社団法人日本スポーツフェアネス推進機構運営委員、表彰委員
  • スポーツ議連レガシー創出プロジェクトチーム・アドバイザリーボード
  • 東京運動記者クラブ会友
  • 野球殿堂競技者表彰委員
  • プロ野球OB記者クラブ会員
  • 野球文化学会会員
【最近の著書、共著】
◎主な著書
『嘉納治五郎』『金栗四三』『中村裕』『田畑政治』(以上、小峰書店)
『日本オリンピック略史』(出版文化社)
◎主な共著
「スポーツと地方創生」「スポーツ・エキセレンス」「スタジアムとアリーナのマネジメント」「スポーツ・ファン・マネジメント」「企業とスポーツの現状と展開」(以上、創文企画)
「日本のスポーツとオリンピック・パラリンピックの歴史」「オリンピック・パラリンピックのレガシー」「オリンピック・パラリンピック歴史を刻んだ人々」「スポーツ白書」(以上、笹川スポーツ財団)
「日本のラグビーを支えた人々」(新紀元社)
◎主な辞典等の執筆
「JOAオリンピック小辞典」(メディアパル)
「21世紀スポーツ大辞典」(大修館書店)
◎主な監修
「オリンピック・パラリンピック大百科全8巻」「オリンピック・パラリンピック」で知る世界の国と地域全6巻」(以上、小峰書店)
「3つの東京オリンピックを大研究全3巻」(岩崎書店)
「オリンピック・パラリンピック全競技全6巻」(ポプラ社)
「全競技がわかるオリンピック・パラリンピック全3巻」(国土社)
「オリンピックもの知りチャンピオン」(くもん出版)

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今回は「事に備える」がテーマです。コロナウイルス感染拡大の影響で、より一層の「事に備える」が大事な今、ノムさんの言葉が思い出される…。

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