「3大栄養素(糖質・蛋白質・脂質)を適切な割合で、ビタミン・ミネラルが不足しないように、そして食物線維は特に十分に食べましょう」と従来から推奨されてきました。ここでは最近の糖尿病学の深化を踏まえ、さらに歩を進めたいと思います。
平均血糖値(HbA1c値:過去1.5か月間の血糖値の平均)が同程度である糖尿病患者でも、生命予後に差異があることは古くから知られていました。食後血糖値が極めて高く食前は低いというA群(血糖変動大)と、食後と食前の血糖値の差が少ないB群(血糖変動小)の2群において、長期に渡る平均血糖値(HbA1c値)が同じであった場合は、A群の生命予後が不良となります。また、食後の急激な高血糖が動脈硬化を促進することが証明されました。従って、食後の急峻な血糖値上昇を如何に防ぐかが課題となります(HbA1cも重要ですが)。
それで、ゆっくり食べる、食物線維を多く食べる、炭水化物の消化を遅くする薬を使うなどが、食後の急激な血糖値上昇を抑える手段として従来から用いられてきました。
「蛋白質を糖質の先に食べておく」は新しい方法です。血糖値を下げるホルモンであるインスリンは、小腸下部のL細胞から分泌されるGLP-1(インクレチンの一つ)によって促進されます。GLP-1は小腸L細胞から、糖やアミノ酸(蛋白質分解の最小単位)が吸収されるときに分泌されるホルモンです。先にアミノ酸が吸収されて、GLP-1が分泌され、インスリン分泌が高まったときに糖が吸収されれば、食後の急激な血糖上昇は抑制されます。このことから、糖質よりも蛋白質を10分ほど早めに食べておくことが、動脈硬化予防や糖尿病悪化予防に効果的と言えるわけです。
蛇足ですが、医学は進歩しています。小腸L細胞から分泌されるGLP-1は、DPP-4という物質で1-2分で分解されてしまいます。せっかくの健康ホルモンなのにと思われますが、現在では分解を邪魔するDPP-4阻害剤が糖尿病の治療薬として頻用されています。このDPP-4阻害剤を内服することで、自分の小腸から分泌されたGLP-1が長く強く作用し、血糖値を下げてくれるのです。このDPP-4阻害剤は、欧米人よりも日本人に効果が出やすく、日本では糖尿病薬の中での使用頻度は1-2位を争うくらい頻用されています。さらに、GLP-1自己皮下注射(GLP-1受容体作動薬)も人気があります。1日1-2回あるいは1週間に1回の注射でいいものもあります(DPP-4阻害剤も1日1-2回内服や週に1回だけ内服のものも)。GLP-1作動薬も多種あり、中には食欲低下(一機食い抑制)や体重減少を手助けする作用も併せ持っているものもあります。
しかし、この薬・注射は糖尿病の患者にだけ適応が認められていますので、そうでない人は食べる順番の工夫によって自分自身のGLP-1をうまく使っていきましょう。
【蜂谷 春雄プロフィール】
高岡市伏木生まれで、伏木保育園・伏木小学校・伏木中学・高岡高校。大学で初めて市外に出て自治医科大学(6年間全寮制で仲間と毎晩地域医療談義)。
昭和55年、富山県立中央病院(2年間)臨床研修医。
昭和57年、氷見市民病院が僻地中核病院に指定され、それと同時に富山県からの出向で氷見市立氷見市民病院(26年間)。僻地巡回診療を26年行った。気が付くと、27歳の最年少医師から53歳の最古参医師となっていた。氷見では副院長・地域医療連携室長・糖尿病センター長を兼務。
平成20年4月、高岡市民病院内科主任部長に着任、その後、医療局長を経て、市民病院理事・副院長で令和2年3月定年退職。
僻地診療26年間と医療機関連携を評価され、平成23年に第5回地域医療貢献奨励賞し家内と一緒に東京で授賞式に行ったことや高岡市民病院を地域医療支援病院にできたことなどが嬉しかった思い出。
定年退職後の現在、高岡市民病院非常勤医療相談役で主に内科外来診療と糖尿病を担当。日本糖尿病学会専門医、日本糖尿病協会療養指導医、富山県糖尿病対策推進会議幹事、日本糖尿病協会富山県支部常任理事、日本内科学会北陸支部評議委員、日本医師会認定産業医。
地域の医療機関へ応援や将来の医療スタッフの育成などを通して、地域医療にさらなる貢献ができればと願っている。